ある日のこと
部屋の明かりがついていないので、そ~っと少しだけ襖戸をあけます。
さよ子さん(仮名)は、ベッドの横のポータブルトイレに座っています。
(声はかけずに見守ります)
排尿が終わり、自分でなんとか立ち上がりました。
(このタイミングで、「こんにちは」と声をかけて部屋に入ります)
ベッドの柵を持って、自分でベッドに戻りました。
浮腫んだ左足が重くて、ベッドの上に足を持ち上げられません。
足を持ち上げるのだけを手伝いました。
以前と比べて、足の力が落ちてきました。
本来は、ベッドもポータブルトイレも、足の裏がきちんと床につく高さに合わせます。
筋力の低下がすすむと、それよりもう少し高くすると、立ち上がりが楽になります。
ポータブルトイレの取扱説明書が見つからず
娘さんと二人でどうすると高さが変えられるのかと思案している(壊してしまうと大変だからです)と、
先生が入ってきました。
その二人の様子を見て、先生が「取扱説明書なくても、分かるよ」と
ポータブルトイレをひっくり返して分解し始めました。
私はその間に、さよ子さんのバイタルサイン(体温、血圧、脈拍、呼吸状態)を測ります。
さよ子さんは、ベッドに横になったまま
ポータブルトイレを先生が調節しているのをじっと見ています。
私が「とってもいいポータブルトイレやもんね」と言うと
「介護保険を使ったら1割で買えるしね。安くなるから、いいポータブルトイレに
しようって、選んだんよね」と娘さんが話してくれました。
(…ちょっと間があいて…)
「いいポータブルトイレでしょう。私が亡くなったら、娘に譲ろうと思ってね」と、にっこり。
娘さんは「え~。ポータブルトイレ 譲られても。。。」と。
母から娘に受け継がれるもの。。。 「ポータブルトイレ」 ちょっと笑ってしまいました。
家具調のポータブルトイレは、本当にしっかりとしたいいもので、
自分一人で終わるのはもったいないと思っているのだと思います。
「私が使う頃には、もっといいのが出てるわよ」と娘さん。
先生が「最初、ポータブルトイレって知らんかったんよ」と話します。
そうなんです。
昨年の4月、あるお宅でのことです。
先生が部屋に入ってくると、
「おはよう! いい椅子やなぁ」と言って、おもむろにポータブルトイレの座面に座りました。
その横で、患者さんの血圧を測っていた私が「先生それ、ポータブルトイレよ…」とぼそっと言いました。
「え~っ! これトイレなの???」
先生は初めて見る『家具調のポータブルトイレ』にびっくり!!
(病院でみてきた『ポータブルトイレ』とは、違うからでしょうね)
これが、先生が初めて『家具調のポータブルトイレ』に出会った瞬間です。
そんな話をしていると
先生が「さあ、できたよ。これで立ち上がりやすくなると思うわ」と。
一度試してもらいます。
さよ子さんはゆっくりと起き上がって、もう一度ポータブルトイレに座り、立ち上がります。
「あぁ、、 楽になったねぇ。ありがとう」と。
家だと皆さんギリギリまで自分の足で歩いてトイレに行きます。
「自分のできることをできるだけ続ける」それが大切なのだと改めて感じます。
「転倒したら大変…」と、ついつい私たちは手を出しがちですが
さよ子さんが自分でできるように、根気よく見守ってくれている娘さんもすごいです。